3月 10, 2019

「海浜くらしの研究所」Vol.19 荻上直子さん(前編)

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「かもめ食堂」はフィンランド、「めがね」は鹿児島の与論島と、ゆっくりと、スローなペースのなかで作りあげた2作です。
「海浜くらしの研究所」Vol.19 荻上直子さん


さまざまなジャンルで活躍するライフデザインの達人たちを迎えて、どんなくらしが自分を楽しく、豊かにしてくれるのかを研究する「海浜くらしの研究所」。その第19回目のゲストは、千葉県ご出身の映画監督である荻上直子さん。今日は荻上さんに、自身の映画づくりについて、いろいろお話しいただきました。



フィンランドで映画をつくる

(『かもめ食堂』は)海外で映画を作りたいとプロデューサーに相談したら、そのプロデューサーが面白い人で「分かった、フィンランドで映画撮ろう」ということになって、フィンランドで撮った映画です。(周りは外国人でしたが)映画を作っている人たちって、どうコミュニケーションをとるかは、どこの国も同じで、必要なモノが訊くと出てくるっていう感じで、カメラマンだったらやることは決まってるし、照明部さんも、どこの国でもやることが決まってるから、そんなに大変じゃなかったです。ただ、フィンランド人のペースが、いつもいつも焦って映画を作って、1日何十時間も仕事して、っていう日本から来た私のペースに合わなくて、最初はその(フィンランド人の)ペースに慣れるのにちょっと苦労しました。

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フィンランド人はすごくゆっくりで、私たちは日本で「走って何でも取りにいけ」って教わったんですが、フィンランドの現場では「絶対走るな、走っていいことなんかない」って感じで。でも、あるとき、スタッフのなかにアイスクリームをなめてる女の子を見たときに、私がイライラしても始まらないなと、あきらめに似た気持ちに身をゆだねるようになって、それからだんだんうまくいくようになりました。

「かもめ食堂」のペースは、フィンランド人の人たちが作ってくれたんだな、って思っています。



風に揺られる雰囲気のなかで

(鹿児島県の与論島が舞台の 『めがね』は)フィンランドから帰ってきて、東京の騒がしさのなかにいたとき、取り残されたみたいな気持ちになって、これはもう一回、日本のなかのスローペースな所に戻りたいと思って撮りました。

(与論島は)何かね、ぼ〜っとするのが楽しくて、(ぼ〜っとする時間が)増えました。本が読めなかったです。
日本人のスタッフだったので、みんなが風に揺られながら撮影してるような、そんないい雰囲気で撮っていたような気がします。ご飯も美味しかったです。地元の方がケータリングとか作ってくださったり、いつも仕事をしてる(フードコーディネーターの)飯島奈美ちゃんが手作りしてくれたりしました。



映画音楽の生まれ方

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(『めがね』の主題歌『めがね』は)ぴったりな曲を(大貫妙子さんが)作ってくださって。(映画音楽は)ストーリーを邪魔してもいけないし、ただの盛り上げ役になってもいけませんが、いいときにぴったりの曲が来ると、音楽だけでグッとくる瞬間もあります。

(『かもめ食堂』のエンディングは井上陽水さんの『クレイジーラブ』ですが)これは、たまたまプロデューサーさんの一人が「エンディングはこれがいい」って言って、私もぴったりだなと思って。劇中で小林聡美さんがプールで泳ぐシーンがあるんですが、小林聡美さんが「カーネーション」という、やっぱり井上陽水さんの曲を歌うんですけど、それは、小林さんが「カーネーションがいい」って、おっしゃってくださって決めました。



大きかった海外の反響

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(2017年公開の『彼らが本気で編むときは、』ではLGBTを取り上げていますが)チャレンジングだなとは思って、それは覚悟して撮りました。いろんな人を傷付けてもいけないし、間違った情報を流してもいけないし。
(マキオ役の桐谷健太さんとお話するときに)ウチの旦那は着るものとか、めちゃくちゃダサくて、つまんない話をするし、何にも取り柄がないんだけど、本当にやさしい人なんですよ、って言って。その“やさしい”っていうところを伝えたかったんです。
(りんこ役の生田斗真さんの役作りは)所作指導の先生に来ていただいて、コップを持つときの手とか、座るときの足とか、どうやったら女性っぽく見えるか、っていうのを、もう細かくチェックくださって。周りのスタッフも女性が多かったので、「これ違います、こうです、ああです。膝の置き方はこうじゃない」とか、撮影中もずっと細かく指示していたら、生田さんが役と所作ばかりに気が向いてしまって、何か気持ちが置いていかれてる感じがしたから「一回飲み行こうぜ」って誘って、一度、一緒に飲んで、役について一緒に話して、っていうことをしました。

(子役の男の子は)うまかったですね。覚悟がありました、彼も。「こういう役、恥ずかしい?」って訊いたら「僕は役者になるから、全然恥ずかしくありません」って、ブラジャー着けるんですけどね。
(編み物もキーワードですが)編み物は全くしません。でも母が手芸とか好きな人で、小さいときは、セーターを編んでくれたり、ワンピース作ってくれたりとかしてくれました。

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麻耶:
ジョージさんは、編み物をもらったりとかある?

ジョージ:
合わなかったセーターもらったことある。

麻耶:
サイズが難しいもんなぁ、たぶん。

荻上:
残念ですね、それは(笑)。

(反響は)実際に地方に行くとトランスジェンダーの方が来てくださって「こういう映画ができて本当にうれしいです」って言ってくださったり、逆に「実際は、こうじゃない」っていう人もいらっしゃいましたし。でも、私の映画では一番、海外の映画祭に呼ばれて、去年、一昨年と15か国くらい映画祭を回って、たくさん賞ももらいました。でも、日本ではお客さんの入りが悪かったので、ちょっと残念だったんですけど。

私もアメリカにいたときは、アジア人で私自身がマイノリティだったので、マイノリティであることをやっぱり意識して住んでいたのですが、LGBTの人たちがマイノリティであることに引け目を感じずに、もっともっと出てきてほしいなと思っています。